みやふきんの見聞録

見聞きしたり感じたものを記録するブログ

富山市ガラス美術館へ行ってきました

隅研吾氏の建築なので、一度は見てみたいと思っていた美術館。

今回、石川富山の旅で立ち寄ることにしました。本当は翌日に行くつもりだったけれど、朝になって調べたら水曜定休なので、あわてて火曜の午後に訪れました。

常設展はディル・チフーリ氏のグラス・アート・ガーデン。撮影可能ではあるけれど、SNS投稿はNG。

過去にチフーリ作品は1997年の神戸での個展と、数年前に箱根の森ガラス美術館で見たことはありました。

富山を題材にこの常設展のために作られた作品などが並んでいます。

 

企画展は2つありました。

「コレクション展 ガラスをめぐる自然」は、所蔵作品からのテーマを絞ってのコレクションを展示するもので、撮影NGでした。

フライヤーの画像にもなっている塚田美登里さんの「光琳♯2」は、やはり印象的でした。美しい緑。

あと私が印象に残っているのは、扇田克也氏の「海に降る雨」。質感とそこに込められた想いの重みを感じて、グッときた作品。

ネット検索したら、2018年には富山市ガラス美術館で個展をされていたとわかりました。見たかったなぁ。

 

もう一つの企画展は「日本近現代ガラスの源流」1870年代から1970年代前半までの時代を切り拓いてきた作家たちの作品、現代のガラス作家の作品などが展示されています。こちらは写真撮影可能でSNS投稿もOKなので、私がいいなと思ったものだけではあるけれども、写真を載せていきます。

1914年、岩城滝次郎、金赤色被切子鉢

これが最初の展示作品というのは、気分が上がる。かわいい!

1932年、岡本一太郎、カットガラス鉢

少し厚みのあるカットガラスの質量感。レトロな感じがかわいい。

1932年、岡本一太郎、スモークガラス酒瓶、グラス

このスモークの色味と、端正なかたちが美しい。

 

大正から昭和初期の氷コップ

どれも可愛らしい色とかたち。

 

明治や大正、昭和初期のソース差しや醤油差し

このかたち、おしゃれすぎませんか!

 

1896-1922年、松浦玉圃、牡丹文デカンダー、グラス

繊細で美しい!

1940年、佐藤潤四郎、鍛鉄硝子吹込花瓶

かたちが可愛い!民藝って感じする。

1986年、佐藤潤四郎、花器・何をしようか

ちょっと斜めになってるのがいい。こういう色合いは好き。

1954年、各務鑛三、花器

時代を感じさせない、色褪せない感覚のある花器と思った。

1995年、青野武市、金赤被凌霄花三段重

わりと現代の器。のうぜんかずらというのがいいな。この透明感のある赤は好き。

制作年不詳、各務クリスタル製作所、カップ&ソーサー

このブルーめっちゃいい色!

1964年、佐藤潤四郎、カガミクリスタル制作、手吹きウイスキーボトル《スーパーニッカ》東京五輪1964モデル

飲んだあと絶対に置いておきたくなるボトル!

1966年頃、淡島雅吉、花器・マーバロン

ブルー系の器には惹かれる傾向あるかも。このかたちも素敵!

1993年、菅澤利雄「魔法の鉛筆」

どの角度からみてもちゃんと色がついているように見える。不思議〜!

制作年不詳、舩木倭帆、めだか文鉢 赤

舩木さんの作品はそれなりに多くあり、私は嬉しかった!大山崎山荘美術館で一度見ていたので、再会できたように思いました。(実は今、まさに12月頃まで、舩木さんの作品が大山崎山荘美術館で展示されています)

展示されていた中で、ダントツに好きな舩木さんの作品。この色とかたち。素敵すぎる!

展示の最後が舩木さんだったので、めっちゃ嬉しかったです!幸せな気持ちで展示会場をあとにしました。

 

富山市ガラス美術館の透ける収蔵庫という名の展示スペースには、現代のガラス作家さんの作品が並んでいます。3階の受付近くのチラシ置き場で1人一冊冊子をもらえます。そこに収蔵庫の作品の一部が載ってます。

私は今井茉里絵さんの作品と南佳織さんの作品が好きだなぁと思いました。

 

富山市ガラス美術館が入っている複合施設キラリの喫茶店でお茶したのですが、ケーキもコーヒーも素敵な器で出てきて、おいしかったので、めっちゃ気分上がりました。

 

富山市ガラス美術館、公式サイトはこちら↓

https://toyama-glass-art-museum.jp

 

 

BIWAKOビエンナーレ2022に行ってきました!

BIWAKOビエンナーレ、この数年ずっと気になっていましたが、今年は気になるアーティストさんが複数名出展されているので見に行くことにしました。

 

まず、BIWAKOビエンナーレとは何か。

今年で10回目の地域アートイベント。展示のほとんどは有料で1ヶ所500円。エリアごとパスポート3000円や全エリアパスポート4500円なども販売されている(開催年によって違いがあるかも。料金は2022年のもの)。

私は近江八幡駅の観光案内所で近江八幡エリアのパスポートを購入。パスポート購入するとパンフレットがもらえます。観光案内所は現金のみの取り扱い。

 

BIWAKOビエンナーレ公式サイトはこちら↓

各エリアの展示会場や出展アーティストを見ることができます。

国際芸術祭BIWAKOビエンナーレ2022|International Art Festival BIWAKO BIENNALE 2022 - 近江八幡&彦根で行われる国際芸術祭BIWAKOビエンナーレ2022

 

YouTubeで作品紹介動画もあります。

https://youtu.be/p5CmSC_cxLY

 

私が当日辿ったルートを簡単に示します。

近江八幡駅に着いたのは10:30頃でした。

 

①旧八幡郵便局

バス(6番乗場から発車)にて、八幡山ロープウェー口で下車、仲屋町通りから駅方面へ徒歩数分。

(アーティストの小作品、ポストカードや図録などはここだけで販売)

②まちや倶楽部(郵便局の向かい側)

③旧扇吉もろみ倉

④禧長

(白雲館へ寄り道)

⑤藤ya

⑥カネ吉別邸

(千成亭でイートイン昼食)

⑦寺本邸

八幡山ロープウェー口からバスで近江八幡駅まで。駅から琵琶湖線にて彦根まで(快速で20分程度)

⑧中野家具2号館(駅から徒歩20分程度)

徒歩で彦根駅まで。彦根駅から近江鉄道で一駅5分程度で鳥居本へ。

⑨有川家(駅から徒歩7分程度)

 

この行程で千成亭でお昼にしたのが13時過ぎ。近江鉄道鳥居本駅に戻ったのが16:20くらい。このアートイベントの注意点は各会場が開くのは10:00、最終入場は16:30で17:00には閉まること。

会場が開いている時間が短いので、エリアを跨ぐのはなかなか難しいです。私は近江八幡旧市街地エリアで中心地から離れた展示には行かなかったし、彦根エリアでもピンポイントで見たいところだけを見たので、なんとかなったのかな。2022年の展示を全部余すところなく見るなら近江八幡旧市街地で1日、沖島で1日、彦根城周辺と鳥居本で1日と3日間は必要だと思われます。

 

さて、ここから本題。

見てきた展示について写真とともに感想を語っていきます。(すべての展示については語りません。印象に残ったものだけ)

 

1.旧八幡郵便局

 

Say Say Say,Inc.の作品

エントランス内にある。オーストリアのアーティスト。時々、風で揺れているのもよかった。

 

藤原昌樹の作品

もともとの場所に合わせた造形がカッコいいと感じた。

 

田中誠人の作品

部屋にしかけのあるインスタレーション

黄色いランプが点いている時に入室して、しばらくするとランプの色が変わり、部屋に変化が現れる。入室は3名までとなっている。5分ほどのインスタレーション

変化して見えたものから、感じて考える面白さがある。

 

2.まちや倶楽部

入ると店舗がある。その奥に展示スペース。黒い幕をかきわけて進むのが非日常感。どうやら倉のようなスペースでの展示。

 

赤松音呂の作品

水の入ったガラスの容器の底の磁石で渦巻きを起こして、音を鳴らす。暗く静かな場所で、照らされる光とものの影と、不思議な響きをもつ音の空間。以前、数奇景という展示で作品を見て虜になった。このまちや倶楽部での空間は、より影が深くて、幻想的。

 

市川平の作品

ライティングが何分かの周期で変わる。蓄光素材の光なのか青緑色に光るタンクが、どこか禍々しい雰囲気でSF世界のような感じ。

 

米谷健+ジュリアの作品

私はTwitterで東京のMIZUMA ART  GALLERY をフォローさせてもらって、アーティスト作品の情報を得ているのだけど、Twitter上で時々見かけていて、いつかは作品を見てみたいと思っていました。なので、今回、作品を見ることができてとても嬉しいのです。

クリスタルパレス」という作品。シャンデリアの大きさは、原発で生産される電力量。ウランガラスの色が毒々しくて美しい。

 

米谷健+ジュリアの「Dysbiotica」

異形のものから連想する危機感を覚える。少し暗い空間に影が強く現れるのが、作品世界の一部のようだった。

 

佐々木類の作品は、私のiPhoneが6sと古いため、暗い空間での撮影に不向きで、写真には収められなかった。暗幕に覆われた暗闇に入ると、ぼんやりと天井から吊されているものが見えてくる。ガラスと蓄光素材のそれは、重みを感じさせず、しかし空間に存在する気配はしっかりあって、人の中の見えなくても感じることのできる能力を引き出してくれる気がした。静寂の中のほのかな光。インスタレーションならではの感覚を味わえた。

 

小曽川瑠那の作品「けしきを織る」

天井から吊るされたガラスの球体。部屋の奥から差し込む光。そして、2階の床下に開けられた四角い穴から吊るされた電球が一階のこの部屋へと降りてくることで、光が変化していく。まさに、けしきが織っていかれる変化を見て、空間と時を感じるインスタレーション。ずっと織られるところを眺めていたい作品。

 

ガブリエラ・モラウェッツの作品

スクリーンの前に置かれたものとスクリーン上で人がしていること、その二つを感じることで成立するインスタレーション。はじまりからおわりまで見れなかったので、雰囲気だけを感じた。呪術のような印象だった。

 

3.旧扇吉もろみ舎

saiho+林イグネル小百合の作品

瓶の中の紙は、紙の色によって書かれる内容が異なっている。瓶の中にはコロナ禍で来れなかったアーティストや来場した方に書いてもらった言葉が入っている。青の紙は作品を通して心に浮かんだ言葉。黄色の紙は大切に思うこと、大切だと気づいたこと。ピンクの紙は会いたくても会えない誰かに伝えたいこと。

想いの数だけ瓶をかたちとして感じられる。言葉は知らない誰かの言葉。

いつも思うけれど、こういう言葉を介したインスタレーションは、どう見ていいか、少し戸惑う。私は人との距離感が遠いからかもしれない。

 

もうひとつの作品は暗闇のなかに光があたって花が浮かび上がってくるインスタレーション。その花は曼珠沙華。私は見ながら、死を、その弔いを感じていた。

 

4.禧長

アトリエシムラの作品

浮かび上がる織り機の糸。そこに存在する色の豊かさが神秘的。

アトリエシムラの京都のお店には一度行ったことがある。志村ふくみさんの展示も以前見に行った。このインスタレーションはその象徴のような存在だと感じた。

 

サークルサイドの作品

光で表現されるものは、さざなみのようであり、海のようで、織物のようだった。

交錯する光の線や点が音と共に現れて消えていくさまが、美しかった。

 

宇野裕美の作品

古い家屋に張り巡らされた赤や白の網のようなもの。結界のようにも思えるインスタレーション

 

横山翔平の作品

古い日本家屋という場をさらに印象深いものにしているガラスの造形。他の場所にあるよりも、ここにあることで、いきている感じがある。

 

海野厚敬の作品

ダークな世界観に惹き込まれる。暗い圧を感じる。

 

江頭誠の作品

やわらかい素材、もこもこした愛らしい花だつたり、淡いピンク色だったり。なのにどこか毒を感じる奇妙な世界観でおもしろい。

 

給田麻那美の作品

母屋ではなく、離れの、それも一間だけの空間に作品があり、それが島みたいで、作品と合っているように思えた。じっくりみると愛らしく思えてくる造形。

 

5.藤ya

亘章吾の作品

ライティングがより作品を引き立てている。

曲線が美しいかたち。

 

6.カネ吉別邸

西島雄志の作品

天井から吊るされた鳳凰。作品に近寄ると小さなものの集まりでできていることがわかる。この空間にあるからこその神秘的な造形。

 

細井篤の作品

質感と曲線、ひねりがかたちづくるもの。その影。

はじめて作品を見たけれど、かなり惹かれる作品たちだった。今後もまた作品を見てみたいと思った。このアーティストさんに出会えたのは今回の収穫。

 

赤松音呂+横山翔平の作品

横山翔平のガラスに、赤松音呂の装置。

以前見た赤松音呂の作り出す世界観とはまた違うスケール感でおもしろい。音も、水の渦も、ゆれも違っている。コラボだからこその空間。

 

田中哲也の作品

狭くて急勾配の階段で2階へ上がる。軋む床を進むと見えてくる、光る葉っぱのたくさん入った箱? この空間にあるからこそ、存在感がある。

 

本郷芳哉の作品

2階にありながら、少し床が下がった場所にある造形。

仄暗い空間にあるからか、蔓延という言葉が湧き上がってきた。造形が商家の空間とすごく合っている。

 

7.寺本邸

永邦洋の作品

私の実家の床の間に獅子の置物があり、和室にはこういう置物が似合うと思った。

細かい造形。重厚な存在感ある。

 

浅野暢晴の作品

入口で靴を持って入ってと言われるのは、この造形を見るため。庭に溶け込んでいる造形物を、しゃがんでじっくり見ると、ほのぼのする。愛らしいもののけみたい。

8.中野家具2号館(彦根エリア 彦根城周辺)

林勇気の作品

この方の作品が展示されるというのも、BIWAKOビエンナーレに来たいと思った要因のひとつ。

10分程度の映像作品。暗幕が張られた暗闇の空間にプロジェクターで光の映像が映し出されている。光は集まり、かたちを作り、変えながら消えていき、また集まり、形になっていく。

銀河のかたちのような、惑星のような、遺伝子のかたちのような、集まり、形作られ、拡散していくさまが、生命の象徴のように思えて、ふと、東京 谷中で見た宮島達男のデジタルカウンターのアートを思い出した。そういえば、林勇気さんの作品に出会ったのは、ARTIST'S FAIR KYOTO2022で、宮島達男さんが推薦されていたのだった。

 

9.有川家(彦根エリア 鳥居本

 

塩見亮介の作品

旧八幡郵便局でグッズのポストカードを見て、当日に見に行くことを決めたくらい、カッコいいと思った。実物を見て、見に来て良かったと思った。今まで鍛金家という存在を知らなかったので、その技術について、まったくわからないのだけど、見たら凄いということだけは感じられた。

動物の鎧というのが、まずかっこいい。そしてその金属の質感がすごい。ほれぼれするほど美しい。

この伝統ある屋敷の空間にあるからこそ、造形の美しさ、世界観が際立っていると感じた。

 

 

以上、拙いながら作品の感想を語ってまいりました。

ただ、何気なく見て感じるのもよし、サイトのステートメントを読み込んで深く感じ入るのもよし。現代アートは自由に感じていいものだと私は思っている。だから、私なりの感じかたで言葉にしただけのこと。

他にも写真は撮ったので、そちらはInstagramにアップしようと思います。

みやふきんのInstagramは、アート展へ行った記録と花で埋められています。

よければご覧下さい。

https://www.instagram.com/p/ClDGpvIpFY1/?igshid=YmMyMTA2M2Y=

最後に全体的な感想など。

地域アートイベントは、私は3年前くらいから見に行っていて、これまで六甲ミーツアートや木津川アートなどに行きました。それぞれにその土地の風景を活かしたアートがあって、どれも素敵でした。今回もメインの近江八幡という、古い街並みの由緒ある屋敷などの中で、それらの場所と融合したようなアートをたくさん見れて、めっちゃ幸せでした。

私は古い街並みが大好きだから、その場を見れるという、一粒で二度とおいしい味わいができるのは最高です。

 

ただ、思うのは、ハイカットスニーカーを履いてくるのではなかったということ。玄関で靴を脱いで鑑賞するところばかりなので、脱ぎ履きするたびに紐を結ばないといけない靴は不向きでした!

あと、狭くて急勾配な室内の階段も結構のぼりおりするので、もっと動きやすい服にすればよかった!

これから行かれる方は参考にしてみて下さい。

 

本当に長々とここまでお読みいただき、ありがとうございます!

行った方もこれから行かれる方も、行く予定のない方も楽しめる内容ならいいんだけどな、と思いながら……。

「純平、考え直せ」を考える〜小説と映画と〜

 小説を原作に映画が作られることって結構多いと思う。これまでいくつ小説原作の映画を観てきたか考えると、すごく多い。映画というのは、上映時間の兼ね合いもあって、そんなに長くない。二時間ちょっとがスタンダード。そのなかに原作を忠実に、なんてなかなかありえない。取捨選択と映画ならではの見せ方がプラスされるのがほとんどなのではないか。
 私は映画を観てから原作小説を読むことが多い。その逆の場合、がっかりする確率が高いというのもあるから。がっかりしなかった作品ももちろんあるけれど。
 前置きが長くなったが、「純平、考え直せ」の映画を観たあとで、原作小説を読んでその違いに驚き、どちらもよいと思ったので、なぜよかったのかを私なりに語ってみたいと思う。

 小説「純平、考え直せ
 著者は奥田英朗。文芸誌「小説宝石」に2009年9月号~2010年8月号までの連載小説
 単行本は2011年1月発行


 映画「純平、考え直せ
 2018年9月22日公開
 監督は森岡利行、脚本は吉川菜美、木村暉、角田ルミ
 純平役に野村周平、加奈役に柳ゆり菜

 伊藤さとりさんが監督にインタビューされた動画でも監督が言っておられたが、かなり原作とは違っていて、結末も変えている。大きな核となる部分は変わらない。変わらない部分は以下の通り。
 気のいい下っ端やくざの純平が、対立する組幹部の命を獲ってこいと親分から鉄砲玉を命じられ、娑婆を楽しめとお金と時間をもらう。決行までの三日間、出会った女の加奈に鉄砲玉をすることを打ち明けると、加奈が掲示板に書き込み、見知らぬネット上の人の忠告や冷やかしなどが飛び交う。三日間のうちに起こった出来事を描く作品。

 映画で付け加えられた最大のものは、恋愛映画になったことにあると思う。小説では三日間に出会う人の中で重要ではあったものの、純平の心を大きく動かすほどの人物ではなかった加奈が、映画の中では純平との出会いの場も、関係の深度も大きく変えられている。それによって、小説の最大のクライマックスである部分は削られ、別の形へと変えられて、結末のせつなさへとつながっている。
 こんなにも原作と変えられてしまうと、むしろ潔くて、原作の要素を核にした別の作品とみなしてもいいくらいだと思ってしまった。中途半端に原作に忠実にするよりよかったと私は思った。小説では三日間のうちに純平が出会う人たちとの関係もまた魅力ではあった。別の組のやくざと仲良くなったり、言いがかりをつけて無銭飲食をしようとする元教授の老人(映画ではホームレスと設定が変わっている)に、奢ってやったあとに送っていったアパートでもらった本のこと、その後、老人を利用して、いざこざになった別の組のやつらに仕返ししたこと。バイクを調達しに地元へ行ったときに出会う暴走族の後輩。小説でも映画でも重要な場所であるコインランドリーにいるゴローも、小説ではもっと親しく関わる。小説の中では、純平が人と関わることでもらったものが、結末のクライマックスへ結びつく。映画ではがっつり削られていたこの部分が、私は小説の中でもっとも心が動いた場面でもあったけれど、映画のあの流れから、この小説のクライマックスへとはつなげられないし、映画の中にしかない別の結末が、映画だからこそ成立して、せつなく余韻を残している。
 掲示板の書き込みをする人物が、小説ではまったく背景が見えない匿名な存在であるのに対し、映画では人物の背負う背景が作られて、生身の人物として、掲示板の書き込みにある純平に対して、思い入れてその行為を止めたいとすら思って行動する。その思いの吸引力もまた、映画のクライマックスへ向かう。その仕掛けに、映画を観ている側が引き込まれる力があった。映像としての見せ方、引きつけ方を感じた。

 この映画では柳ゆり菜さんの体当たりの演技もまた話題となったようだ。映画がR15になっているのは官能的なシーンがあるせいで、とても濃厚なベッドシーンがある。下品ではなく美しいが、私が好きだと思っている映画の中の官能的なシーンの比ではなかった(ちなみに好みなのは「第三夫人と髪飾り」)。小説を読んだときは、そのあっさりした描写に逆に驚いた。小説の描写はこうだ。

 四回目以降のセックスは単なる運動の様相を呈してきた。一回目は二人とも興奮していて前戯もなく動物的に求め合い、二回目は失地回復するがごとく丁寧に施し合い、三回目になってやっと互いに反応を楽しむ余裕が生まれ、満足のゆくセックスができた。(中略)
 純平も人肌が愛しかった。柔肌と産毛の心地よさ、内側から発せられる体温とが、純平のすべてを受け入れてくれ、死んでもいいとはこういう瞬間を言うのだろうと、生きている実感を噛みしめていた。

 小説は小説でとある描写が非常に映像的で際立っていたので、そちらの方が私は好みかもしれない。幹部の顔を確認してきてホテルに戻ってきてベッドにいる加奈との場面。引用すると、この部分。

「おい。ちょっと寝かせろ」
 純平は、加奈をベッドの真ん中から押しやった。スペースを確保して布団を被る。
「何よ、寝ちゃうの」と加奈。
「いい加減眠いんだよ。おれの一日は長えんだ」純平が大あくびをした。
「じゃあ、わたしも寝よっかな」
 加奈が横向きになる。浴衣から大きな乳房がぽろりとこぼれた。
 どうしようかと迷いつつも、自然と純平の手が伸びた。

 けれど、映画の役者さんのこの時にしかない美しさは、柳ゆり菜さんにしても野村周平さんにしてもあると思う。小説では短い文章で表現されるものが、映像での表現となると形を変えるのだろう。
 
 映画のなかでもとりわけ私が印象的なシーンは、予告編のなかにも出てくるあのまなざし。
 加奈が純平を見つけた神社で、靴擦れになった足を純平に洗ってもらったあとのふたり。みつめあう視線の、その目の表情。ああいうのは映画にしかない、惹かれあうふたりのまなざしだ。こういう場面だけで、ぐっと映画の世界に引き込まれる。ほんといい表情、いい目をしていた、柳ゆり菜さんも野村周平さんも。それは映画が恋愛に舵を切ったから生まれたもの。

 小説には小説の、映画には映画の良さがあって、だからどちらも素敵で愛おしい。
こんな作品に出会えたことを幸せに思う。
 だって、二倍だから。作品を愛おしく思う気持ちが映画でも小説でもあるって、最高の相乗効果。
 
 原作を映画にすることが多い邦画。どうかそんな素敵な作品がたくさん生まれますように!

 

光文社文庫

奥田英朗著「純平、考え直せ

https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334766627

 

映画「純平、考え直せ」予告編

https://youtu.be/RjCtdAgyPpA

 

伊藤さとりさんの森岡利行監督へのインタビュー(前編)映画紹介のあとに流れます。

https://youtu.be/Mr08wFcwKLQ

 

伊藤さとりさんの森岡利行監督へのインタビュー(後編)映画紹介のあとに流れます。

https://youtu.be/_BYDAwq8XO8

 

伊藤さとりさんの野村周平さんへのインタビュー

https://youtu.be/iEv2frZRDhU

 

自慢の⁈コレクション [レターセット]

お題「自慢のコレクション」


レターセットに凝りはじめたのは何時ごろからだったのだろう。少なくとも高校生の私はほとんど手紙など書いたことがなかった。当時好きだった久保田利伸のファーストアルバムを聴いて、事務所に感想を送った記憶はある。あきらかに手紙を書くことが増えたのは、同人誌活動を始めてからだ。1990年代の同人誌はネット環境もなく、感想を手紙にしたためて、奥付の住所へ送ったりすることがあった。大好きな同人作家さんへ感想のお便りを、幾度となく送った記憶がある。何度かお返事をいただいて舞い上がったこともあった。大学を卒業して、ほとんどの友人に気軽に会えなくなったことも手紙を書く機会になったし、会員制創作小説サークルをしていた時は50人程度の会員さんへ、年三回の会誌を送付するのに合わせて、各々へ宛てた手紙を書いたりもしていた。そして結婚後引っ越しをして地元から離れて、多くの人と会えない状況になり、手紙を書く頻度は増えていったように思う。


これまでで好きだったレターセット(あるいはお揃いの便箋と封筒)がいくつかあるので、語っていこうと思う。

私は罫線のある便箋よりは、薄手の紙で透け感があり、罫線の下敷きをして文字を書くスタイルの便箋がかなり好みである。(上の画像はホールマークの古染箋)


たとえば、ミドリの和紙便箋シリーズ。

季節に合わせていろんな柄が出て、なおかつ美しいので大好きなシリーズ。しかし、高価なのであまり買えないのがたまにきず。

https://www.midori-store.net/smp/list.php?type=class&scat=4464


紙としてものすごく好きなのは、オニオンスキンペーパーの便箋。ペラッとしていて独特のシワがある。2000年頃、いろんな色や柄があってよかったけど、今はほとんどなくて、先日、ようやく竹尾の淀屋橋見本帖店でレターセットを購入した。もったいなくてまだ使ってない。

https://products.takeopaper.com/collections/dressco_onionskin-letterset


イラストレーターさんの便箋というのも好きで、いわぶちさちこさんの個展で買ったものは、春のさわやかな時期に使うため3年くらいずっと手元にある。


昨年入手した蒼川わかさんのイラストを使用したリュリュというメーカーから出ている空時間のレターセットもお気に入り。

https://www.ryuryu-market.jp/sorazikan/top.html


雑貨屋さんのギニョール&JAMPOTさんが毎年行っている天体関連のグッズやイラストを販売する「天体観測展」で知った遊星商會さんの「星座図レターパッド」も好きで集めた。クラフト紙から始まり、厚手の水色の紙、深藍の色とどれも好き。今はこの紙質のものは販売されていないけれど、別の紙質で「古図便箋綴」として販売されている。

https://yuseisyoukai.booth.pm/


今は販売されていないもので好きだったのが、「はがき手紙」というシリーズ。

まだはがきが50円で送れていた頃の商品。今も企業のはがきではよく使われているが、ペラッとめくるようになっていて、中に重要な情報が印字してあるタイプのはがきと同じ構造。

これは、見開き状の紙に最初に文字を書いて、シート状の特殊な糊を貼りつけて、はがきサイズにするもの。数年前に4セットくらい買ってちまちま使っている。


一筆箋の類はそんなに多くは持ってない。中でもお気に入りは「裏具」というお店の文学作品の一文を罫線にした一筆箋。残念ながらお店は閉店してしまい、これまたちまちまと使っていくしかないものになってしまった。


とにかくレターセットや便箋・封筒が好きで、たぶん30個以上は持っていると思う。

文字を、手紙を書くのが好きなので、なんだかんだとまだ集め続けてしまう気がする。


テオ・ヤンセン展(大阪南港ATCギャラリー)備忘録 

テオ・ヤンセン展へ行ってきました!

私がテオ・ヤンセンを知ったのはいつ頃だったのかもう忘れてしまいましたが、テレビ番組の特集だったのかもしれません。海辺で風を受けて動くストランドビーストの姿を見て、一度は実物を見たいと思っていました。ブログを書くにあたり、過去のテオ・ヤンセン展の記事を探していると、2010年に東京の日本未来館で開催された時の記事がありました。そこには2007年にテレビCMになったとありましたから、それかもしれません。その時の記事にはストランドビーストではなく、ビーチアニマルと記載してありました。

 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000165.000000084.html

2019年に兵庫で開催が決まっていましたが、コロナ禍で一度開催を延期されてもう関西ではやらないのかと思っていたので、開催の知らせには興奮しました。前売券も購入して開催のその日が来るのを待っていました。

じんわりとまたコロナ流行の兆しがあったので、開催してすぐに行こうと決めて、初日の朝に行きました。

開場30分前、入場列はどれくらいか? 思ったよりも少なくて30人未満。待機列としてロープが張られているが、余裕がかなりありました。

待っていると係の人が講演会の整理券を配りに来られました。

講演会? 

私はチラシ記載の情報しか知らなかったのですが、初日はテオ・ヤンセンが来日して講演するということでした。

残念ながら私はその日、別の展覧会へも行くつもりだったので、講演は諦めました。

 

いざ、入場。

まずは「アニマリス・リジデ・プロペランス」の展示。

展示のそばには大きさや特徴を記載したパネルも展示されています。

 

 

テオ・ヤンセン展は数年前に日本で巡回で開催されています。2019年の札幌のあと、本当は2020年に兵庫県立美術館でやるはずだったのが、コロナで延期。2021年に山梨、熊本と続けて開催し、2022年大阪ATCギャラリーでの開催になったようです。それに際して日本初公開となる作品をとの意向で、2019年作の「アニマリス・ミミクラエ」が展示されることになったようです。

 

 

 

「アニマリス・ペルシピエーレ・プリムス」2006年

うっすら汚れていたり、黄ばんでいるのも動いてきたんだという感じがしました。

 

展示ではホーリーナンバーの脚のしくみのパネルやストランドビーストに使っている部品、部品を加工するのに使う道具の写真なども展示されていました。

また、この展覧会では実際に小型のストランドビーストを手で押して体験できるコーナーがあります。もちろん私も体験してきました。思ったよりもまっすぐ進まない、とちょっぴり軌道修正しながら押して歩きました。

スタッフの方にお願いして動画は撮ってもらったのですが、いろんな人が写り込んでいるのでブログに載せるのは割愛します。その代わりに、関係者の内覧会で撮影されたあべの経済新聞さんが撮影された内覧会の様子の動画をリンクで貼っておきます。

内覧会は開催日前日に行われたようで、テオ氏による解説もされていて、エアポンプで送り込まれた空気により動くリ・アニメーションの様子もあります。

 https://youtu.be/r7CgVHLaokI

リ・アニメーションは毎日10時15分から1時間おきに開催されます。

どのストランドビーストがいつなのかは、パネルに書いてありました。

 

アナウンスで案内があるとみんな集まってきて、スタッフに動く仕組みなどを教えてもらい、エアポンプの風の力でストランドビーストが実際に動く様子を見ることができます。

実際に動くのはそんなに長い時間ではなく、数分です。でもすごい迫力です。動くのを見るとやはり、おおっ!と周りから声が漏れてきます。

一度目はあまりいい位置で見られなかったので、次の回も見ることに決めました。

その間に展示をゆっくり見ます。特に興味深かったのは進化の系図。うまくおさまらないので、写真には撮りませんでしたが、ビーストがどんな機能を得ていったのか、その機能をもつビーストはどれかなど、生物としてとらえてあるのが、なんとも愛らしい。

そしてショップコーナーではミニビーストを販売していて、組み立てられたものが見本としておいてあり、うちわを使って動かせるようになっていました。私もすこし動かしてみました。動く姿は小さいのもあって、とにかく愛らしいです。

 

その日二回目のリ・アニメーションが始まる15分くらい前のこと、スタッフ同士で動作確認をされていました。その様子を次々にお客さんが見にきてしまい、やさしいスタッフの方は動きを解説してくださいました。仕組みを理解できて貴重な時間でした。

いよいよリ・アニメーションが始まるという時間になり、ほぼ真ん中の最前列で見ることになりました。解説してくれるスタッフは、テオ氏がこの場に来るとアナウンス。予期せぬ事態に興奮!

講演会には参加できないので、会えないと思っていたからめっちゃ嬉しかったです。テオ氏みずから解説してくれて、スタッフの方がテオ氏の言葉を受けて説明してくれました。

 

 展示パネルの横に立つのがテオ氏。展示会のスタッフが解説してくれています。

 

リ・アニメーションで目の前に動いてくるストランドビーストはすごい迫力でした!そしてちゃんとお客さんの前までくると反対側へ戻るのが、すごいなぁと感動でした。

海辺で水に浸かると反対方向へ動けるような構造になっているとのことで、その説明をされていました。

 

展示会が終わるとストランドビーストは解体されて保管されるのだという。そしてまた展示会があると、組み立て再生される。その表現が なんとも素敵だなぁと思いました。

会期は2022年9月25日まで。

まだの方で興味のある方は、迫力あり、愛らしいストランドビーストたちをその目で見て体感してきて下さい。ぜひ!

 

公式サイトはこちら↓

テオ・ヤンセン展 Theo Jansen | イベント | MBS 毎日放送

 

追記(2022.07.24)


展覧会のショップで販売されているミニビーストを購入していたのですが、部品が一部折れてしまっていて、販売元の学研プラスにその部品だけ送ってもらったのが届いたので、組み立てました。

説明書はわかりやすく、さくさく作れます。

ワンタッチロッドの(大)(小)を間違えてつけてしまい、つけなおすことになってしまったミスはあったものの、約2時間で完成。

動いている動画はInstagramにアップロードしました。

https://www.instagram.com/tv/CgYp-HipQep/?igshid=YmMyMTA2M2Y=


書店はあこがれの世界

作家のほしおさなえさんが関わっておられるhoshoboshiの雑誌「星々 vol.1」の特集が「書店」で、購読者の方々が寄稿されたエッセイを読み、私も書店について語りたい、と思ってこの記事を書くことにしました。いくつかの項目に分けて書いていこうと思います。

 

1.幼い頃と書店

私は1970年代生まれで、まだ町に本屋さんがいくつもあるような頃だったと思う。人口8,000人ほどの田舎町の故郷にも本屋さんはあった。一軒だけ。雑誌と文庫とコミックと話題の本くらいの品揃えしかないような本屋さんだったけれど、小学生の私はおこづかいやお年玉で大好きな漫画のコミックを買うのが楽しみでしかたなかった。大人になった今も、そのお店で買ったコミックは、カバーはなくしてしまい、ボロボロになっても、買い換えずに大切にしている。その本屋さんも私が高校生になる頃には廃業してしまった。

 

2.高校生の寄り道スポット

田舎だと町内に高校がないことも多く、私の故郷もそうだった。電車通学することになり、高校の最寄駅から高校までの通り道にその書店はあって、下校時には電車通学の学生が多く立ち読みしていた。私も例にもれずかなりの頻度で立ち寄って、ライトノベルの走りである文庫や新書を買っていた。ぐっと書店が身近になった私は、その頃から書店で働きたいと考えるようになっていたように思う。ところが、高校には書店の求人がなく、安易にも大学生になれば求人もあるに違いないと考えて、普通科の就職組のクラスだったのに、高3の夏に進路変更して大学受験を決めた。無事に大学に合格。そしてクラス担任から書店でのアルバイトを紹介してもらう。それが、高校最寄駅から通学路の通り道にある書店だった。

 

3.小さな書店でのアルバイト

その書店はよくある町の書店らしく、店舗での販売と雑誌の定期購読配達をしていた。私は大学が終わった後の夕方から閉店まで、主にレジと返本作業をしていた。日販とか東販とか取次という存在があることをその時に知った。小さな書店なので、選書するのはあまりなくて、取次から回ってくる本を並べていた。取次の企画するフェアとかはあったけれど、正直、自分で選書したいという思いでいっぱいになっていた頃だった。私にできるのはフェアの本をいかに目にとまるように並べるか、くらいのものだった。

そのフェアの本をよく買ってくれる女の子がいた。実はその女の子は私がバイトする書店の数軒となりのスーパーでバイトしていて、私が通う大学の同学年別学科の女の子だった。本を買ってくれることが嬉しかったことは今も覚えている。残念ながらその女の子とは一度も話すことはなかった。今の私なら話しかけることができているかもしれないが、その頃の私は人見知りで怖がりだった。

3.就職活動と書店

就職氷河期より前の世代、バブル崩壊後すぐの就職で、まだ求人も多かった。私はとにかく書店に応募しまくった。関西でそれなりに大手の書店、全国展開している老舗書店、その頃増えていた郊外型の大型店を展開する書店。三次面接までいったのが、郊外型の書店。でもいわゆる圧迫面接で、うまく答えられなくて撃沈。書店員になることを諦めた(早い諦めである)私は、この頃から同人誌活動にのめり込んでいった。

4.社会人になってからの書店

車を手に入れた私、夜、比較的遅い時間も活動するようになった。深夜も空いているような大型古書店や、もう少し早い時間に閉まるBOOK OFFに出かける。30分ほど立ち読みして楽しんだあと、気になった単行本を買ったり、漫画本を一気買いしたり、いちばん気軽に本を購入していた頃だ。もちろん普通の新刊を扱う書店でも本をたくさん買っていた。その頃の私のいちばんのお気に入りの本屋は川を隔てた隣町にあり、規模的にはそんなに大きくはなかったが、学生が多い街ということもあって、いわゆるサブカル系の本もたくさん置いていた。私はその本屋さんで写真家の荒木経惟や随筆家の赤瀬川原平藤原新也を知り、人形作家の天野可淡を知った。本屋さんに行くことで広がる世界があった。今はその本屋さんは喫茶店に変わってしまったけれど、私の記憶にはずっと残り続けている。

 

以上、書店について長々と語りました。

冒頭に書いたhoshiboshi の雑誌はこちら↓のサイトのオンラインショップから購入できます。

私の140字小説(過去作ですが)も、佳作で入選したので一編だけ載せてもらっています。

よければサイトをご覧になってみて下さい。

www.hoshiboshi2020.com

 

 

「挑む浮世絵 国芳から芳年へ」展を観にいってきました

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京都府京都文化博物館で2022年2月26日〜4月10日まで開催中の「挑む浮世絵 国芳から芳年へ」展を観にいって来ました。行ったのは3月5日(土)。10時の開場を待つ人が10人くらい列を作っていました。開場してすぐなので、人はめちゃくちゃ多くはありませんが、一人絵の前に立ち、次の人がゆっくりと待つというような流れでした。

撮影可能だったのでシャッター音が聞こえてくることもありましたが、私が見ているまわりの方々は、むしろ絵に集中してしっかり見ておられる方がほとんどでした。

 

名古屋市博物館の個人コレクション(尾崎久弥氏と高木繁氏)をそっくりお借りしての企画巡回展。国芳とその弟子たちの浮世絵です。

2019年2月〜4月の名古屋市文化博物館から始まって、広島県立美術館福岡市博物館と巡回。2020年は浜松市美術館、2021年は高崎市タワー美術館、郡山市立美術館。そして現在の京都文化博物館での開催となっています。

本当は2021年6月開催予定だったのが、延期になっての開催だったようです。

 

私の目当ては国芳芳年でしたが、思いのほかいいなと思ったのは落合芳幾でした。「英名二十八衆句」は芳年と芳幾の連作でそれぞれが14図ずつ描いているもの。今回はすべて見ることができて素晴らしかったと思う。芝居から題材を得た無惨絵で、展示スペースでは怖いのを見たくない人はそのブースを飛ばせるように、順路が組まれていました。

私はもちろんしっかりじっくり見ました。

特に気に入ったのは芳年の「福岡貢」。動きがあって美しい。芳幾の作品も艶っぽい感じで良かったです。


浮世絵のなかには、少し滑稽なものもあり、人の顔が、人の体の集まりでできているのとか、集合体がなにかの形を成すものが少しだけ集められていました。

国芳だと猫髑髏が有名だと思います。

今回、会場内撮影可能でしたので、どうしてもの一枚だけ撮ろうと決めていました。

撮ったのは獅子が集まって花になっている作品。

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作者は国芳と伝えられているけれど、遠浪斎重光かもしれないという。

とにかく愛らしい。

国芳は猫の愛らしい作品も多いと思いますが、今回の展示は猫要素少なめでした。今回のでは、擬人化した「里すずめねぐらの仮宿」が私は好きだなと思いました。


展示はいくつかのセクションに分かれていて、浅茅が原の鬼婆伝説を描いたコーナーが面白かったです。 国芳が絵馬を奉納したことから広がった浅茅が原の鬼婆伝説を描いた浮世絵。こうやって一堂に集めて展示されることで、題材をどんなふうに描くのかという切り取りかたの妙を知ることができて面白かったのでした。

そのなかでも芳年の「奥州安達がはらひとつ家の図」という作品が良かったです。

なかなかに残虐な浮世絵ですが、構図もすごいですが、妊婦の丸い腹や、髪の毛の細やかな線には圧倒されるし、老婆の皺も印象に残ります。


私が芳年に興味を持ったのは友人の影響で、数年前のこと。芳年の作品をここまで多く見たのは初めてで、テンション上がりました。私のなかでは、「国芳から芳年へ」展の最高のクライマックスは、芳年の「東名所墨田川梅若之古事」でした。

本当に美しい。散る花と川に浮かぶ月明かり。命儚き少年の、風に翻る袖。

ずっと見ていたいと思う。

その瞬間、時が止まったように感じるなんとも素敵な浮世絵です。


私が良いと思った芳年の3作品はポストカードになっていました。月百姿シリーズのも。

いつか月百姿シリーズはたくさん見てみたいです。

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 左上:芳年「安達がはらひとつ家の図」中上:芳年「英名二十八衆句 福岡貢」右上:芳年「月百姿 吼噦」中下:国芳「里すずめねぐらの仮宿」下:芳年「東名所墨田川梅若之古事」


公式サイト↓

https://www.bunpaku.or.jp/exhi_special_post/kuniyoshi-yoshitoshi2022/